Merry Christmas with Kotaro


今日は待ちに待ったクリスマスイブ。
今年のイブは土曜日で、平日じゃないから琥太郎さんも早く帰ってくると言ってくれたから。
クリスマスっぽい料理を頑張ってみよ!

…って意気込んだのはいいんだけれど。
インターネットで調べたレシピ通りに作ってるつもりなんだけど…。
「こんなの、全然クリスマスっぽくないよ…」
とても食べられそうもない料理に悲しくなってきて、滲んできた涙をごしごし擦る。
…駄目、泣いてたら琥太郎さんが心配しちゃうもん。
一生懸命泣き止もうとしてみるんだけど、そう言うときに限って涙は引っ込んでくれない。
あぁ、どうしよ。こんなことしている間にも…。
がちゃりと扉を開く音がする。
パタパタとこちらへ歩いてくる足音、ちっとも止まらない涙。そして…。
「ただい、…月子。どうした?」
扉を開くなり泣いている私が居たからびっくりしたんだろう琥太郎さんが一度目を丸くして、でも凄く優しい声で問いかけてくる。
慌ててごしごしと目を擦ると、琥太郎さんは私のその手を取って。
「そんなに擦るんじゃない。あぁ、目が真っ赤じゃないか」
そう良いながらスーツのポケットからキレイに折りたたまれたハンカチを取り出して、私の目元を拭ってくれる。
その姿がとても様になっていて、私の恋人はどうしてこんなにキレイなんだろうなんて考えているうちに少しずつ涙も収まってきた。
「その…折角のクリスマスだから何か特別なものを作ろうと思ったんですけれど…うまくいかなくて…」
そう言いながら台所の惨状を見てもらおうと身体をずらすけれど、琥太郎さんはふっと視線をそらして口元に手を当てている。
それはどこか驚いていると言うか、戸惑っていると言うか、どこか挙動不審で。
「…琥太郎さん?」
声を掛けるとはっとしてこちらに顔を向けて、ちょっと困ったように笑った。
「そうか、今日はクリスマスイブだったな」
忙しい人だと言う事は知っていたけれど、こんなにクリスマスソングが流れている中忘れていたなんて。
琥太郎さんらしくてついつい笑ってしまう。
私がクスクス笑うと、琥太郎さんはほっとしたように笑みを浮かべた。
「やっと泣き止んだか、月子は時々泣き虫になるな」
そう良いながら私の前髪を上げて、目元とおでこに軽くキスをしてくれた。
「それじゃあ出掛けるか」
琥太郎さんはそう言ったかと思うと、私の手を取ってきた道を戻る。
つまりは外へ行こうとしている訳で。
え、え?とまぬけな声が出た。
「琥太郎さん、どこいくんですかっ?」
私、お出かけするなんて思ってないから普段着なんだけどっ。
慌てる私に、琥太郎さんはくすりと笑ってキレイな笑顔を浮かべた。
「お前はクリスマスらしい事をしたいんだろう?
 いいから俺に任せておきなさい」
私は良く解らないまま、琥太郎さんの車に押し込まれるのだった。


「星月様、お待ちしておりました」
「あぁ、有難う。
 …どうした月子。座りなさい」
言われるままに私は、ウェイターさんが引いてくれた椅子に腰を下ろす。
どうしてこうなったんだろうとちょっと考えながら。

私が着ているのは琥太郎さんが見立てたドレスで、可愛いミュールで。
値段は…教えてもらえなかったけれど、お店に並んでいる福や小物の値段を見れば大体想像がつく。
その後は美容院に行って髪を整えてもらったり、ちょっとだけメイクしてもらって。
それからいつの間に予約していたのか、高そうなレストランの、夜景が見える机に案内されたわけで。
戸惑っている間にも琥太郎さんはワインを選んでいて。
「お前はお子様だからこれくらいがちょうどいいだろう。
 俺は運転して帰らないといけないから飲めないしな」
琥太郎さんはそう私をからかいながらもあれこれオーダーを済ませて。
立ち去っていくウェイターさんを横目に、やっと私は思い当たった。
「…クリスマス、らしいこと?」
ぽつりと私が言った言葉に琥太郎さんはきょとんと目を丸くして。
沈黙時間が少し、の後に。
ぷ、と盛大に吹き出されてしまった。
「お前、それを今言うのか?」
声を上げて笑いながらそんな事を言われて思わずふくれてしまう。
「だって、琥太郎さんが考える暇をくれなかったんですよっ!
 やれドレスはこうだ、靴はこんな感じで、ヘアもメイクも合わせてやってくれって、」
流されて来たんですから、って、笑われたお返しにちょっとくらい意地悪な文句も言ってやろうって思ってたのに。
琥太郎さんはいつの間にか大笑いを引っ込めて凄く優しい笑顔をして。
ぎゅ、っと私の手を握ってくるから。
……ずるいよ。そんな事されたら何も言えなくなっちゃう。
「お前はいつも、あまり時間が取れない俺を気遣って色々我慢してしまうだろう?
 たまにはこうしてお前を思い切り甘やかしてやりたいんだ。
 今日くらいは構わないだろう?
 なんと言っても今日はクリスマスイブなんだからな」
今の今まで忘れていた俺が言うのもおかしな話なんだがな、と苦笑する琥太郎さん。
でももう、そんな数時間前の話なんてどうでも良かった。
忙しい琥太郎さんの、今この時間は私だけのものなんだから。それが私の特権なんだから。
「…ドレスもお料理も有難う御座います。凄く嬉しいです」
お礼を言えば、琥太郎さんは本当に嬉しそうな笑顔で微笑んでくれるから。
私たちの唇が重なるのはごくごく自然な事だった。

「さ、そろそろ料理がくる頃だ。
 クリスマスっぽい夜はまだまだ終わらないから、楽しみにしていなさい」
こちらへ近づいてくる足音をBGMに、私はこれからの素敵な時間に期待して胸を躍らせた。