Merry Christmas with Iku

「暇なら今度の土曜日遊びにおいでよ」
なんて電話が、気まぐれな彼から掛かってきたのは月曜日の事。
郁と久しぶりに会えるのは凄く嬉しかったから、1も2も無く頷いた。
声の調子だけで喜んでるのは郁にも解ってしまったみたいで。
「なぁに、暫く僕に会えなかっただけなのにそんなに寂しかったの?」
そんな意地悪な問いかけには、お子様。って暗に言われているみたいでついつい返事に困っちゃうんだけど。
私の小さな抵抗すら郁にはお見通しみたいで。
「そこでむきになるところがお子様なんだよ」
結局「お子様」な私は郁の手のひらの上にいるみたい。
何も言い返せなくてむぅ、と唸っていると。
「僕は君のお子様なところも好きなんだから、そんなに拗ねないで、お姫様」
そう言う郁の声は凄く優しいから、ついつい素直にうん、と頷いていた。

返事をしたけど念のため、って電話をしながら手帳を確認してみる。
うん、期限が迫っているレポートはあと見直しくらいだし、他の講義の提出は年明けだし。
だから24日はー…24日?
「え、24日?」
ぽつりと言った言葉に郁が不思議そうな声を出す。
「なに、やっぱり何か用事があるの?」
「ううん、そう言うことじゃないんだけど!」
「用事が無いならついでに泊まっていけばいいんじゃない?僕も久しぶりに月子とゆっくりしたいし」
「え、泊ま!?」
一気に首まで赤くなってしまう。
私の反応にクスクスと笑う声が響いた。
「月子、なに赤くなってるの?」
「赤くなってない!」
「嘘。僕は月子の事ならなんでも解るんだよ。月子は単純で可愛いお子様だからね」
またお子様って言われた…としょんぼりする気持ちと、泊まっていけばの言葉に唸る事しか出来ない私に、郁はとびっきり優しくてとびっきり甘い声で。
「待っているから、気をつけておいで」

からかわれて、甘やかされて。
一喜一憂している間にすっかりと訊くタイミングを逃しちゃったけど。

郁、今度の土曜日は…24日はクリスマスイブなんだよ…?


で、なんとなく聞き逃したまんま時間が過ぎていって。
クリスマスなんか気にしてるの?お子様、なんて思われたくなくって。

「結局、プレゼントしか準備出来なかったなあ…」

郁の住むマンションの最寄のバス停を降りて、郁の部屋へと向かっている。
いつの間にか通いなれた道。見慣れた景色。
郁のとなりに居ることが極自然な事になれたらいいのに。なんてことを思いながらインターフォンに指を伸ばす。
「やぁ月子。いらっしゃい」
鳴らしてすぐ、ドアが開いて嬉しい笑顔が出迎えてくれた。
「郁」
「寒かったでしょ?ほら上がって」
そう言って自然な流れで私の手を取ってくれる郁にエスコートされて、部屋へと向かうと。

「…!」
机の上に乗っているケーキや、リボンの巻いてあるチキンは、普通ならないはずのもの。
なにより机にちょこんと乗っている20センチくらいのクリスマスツリーがアピールしてる。
郁、クリスマスだって解って誘ってくれてたんだ…。
「前も言ったよね。君の考えている事は僕にはお見通し。
 クリスマスイブを僕と一緒に過ごしたいって思ってることだって。
 当たり前だろ?だってそれだけ僕は君の事を見て、君のことばかり考えてるんだから」
郁の言葉がじんわり心に沁みていく。
郁の言葉がなにより私を暖めてくれている。
郁は相変わらず愛の言葉とか好きじゃなくて中々言ってはくれないけれど、今の言葉は何よりも情熱的な愛の言葉だと思った。
「郁…ありがとう。郁とクリスマスを過ごせて、すごく…すごく嬉しい」
郁はくすりと小さく笑って、そっと私の目元を拭ってくれる。
「僕は泣かせたくてクリスマスの準備をしたんじゃないんだけれど?」
私も気付かなかった涙を郁は気付いて拭ってくれる。
そして仕上げ、と言うみたいに目元に、キス、されて…。
もう、耳まで熱くなっててきっと真っ赤になってるから慌てて逃げようとするんだけれど。
「駄目。このまま…」
郁の右手は私の頬に添えられてて、左手でぐいっと引き寄せられて。
顔をそらす事も出来ないよ…!
「い、く…!や、あんまり見ないで…!」
まっすぐ見つめてくる瞳を見つめ返す事が出来なくて、目をそらすんだけど。
そんな小さな抵抗、も、郁に取っては全然意味が無いみたいで。
ちゅ、ちゅ…って頬や鼻の頭や耳にキスが降って来て。
なんだか、恥ずかしくて溶けちゃいそう…!
何かすがるものが欲しくて必死に郁の服のすそを掴むと、ようやく郁はちょっと止まってくれた。
「これくらいでもうギブアップ?本当に月子はお子様だね」
そう言って、今度は唇にキス、されて…!
「いいよ、お子様な月子にあわせて今はこのあたりで止めてあげる。
 ただし、月子からキスしてくれたらね?
 クリスマスなんだから、それくらいしてくれたっていいんじゃない?」
ほら、なんて言いながら郁が身を屈めて来るから。
…もう、覚悟を決めるしかないよね。
「…メリークリスマス、郁」
そう良いながら、私は精一杯の背伸びをするのだった。