確信……不可能なんて、知らない。

手遅れには、させないから……!!





「カイメイで『サルベージ』・後編」





リンはごみばこのふちで祈るように手を組んで立っていた。
小柄な妹がますます小さく見えて、はかなく消えてしまいそうで…消えてしまわないように、現実に引き留めるように声を掛ける。
「リン」
びくん、と大きく震えた小さな身体と、白い大きなリボン。
振り返るリンの瞳は、何度も何度も涙を拭ったんだろう、真っ赤に腫れていた。
「メイコ、姉…」
ふにゃり、と笑顔を作ろうとして失敗した表情。
無理して表情を偽らせたくなくて、胸に抱き寄せた。
「リン…本当によく頑張ったわ。後は私に任せて、もう、頑張らなくて良いのよ…?」
腕の中の小さな小さな女の子はおずおずと、服の裾を掴んでくる。
「メイコ姉…!」
じわ、っと目が潤んで、あ、泣くと思ったらもう止まらなかった。
ぱたぱたっと雫がこぼれる。
「メイコ姉!こわ、怖かったよ、怖かったよぉ…っ!」
涙が落ちた、と思ったらもう地面は見えなくなっていて、リンがぎゅっと私の腰にしがみついてた。
無理させていてごめんなさい、と口には出来なかったけれど、せめて頑張った彼女を労いたくて、私は頭や背中や腰や、とにかく彼女を撫でる事しか出来なかった。
「有難う、リン…有難うね、一生懸命頑張ってくれて…」

だから次は、私が頑張る番。


ふとごみばこの方が騒がしくなって、私はそちらに視線を向ける。
ピンクの髪の女の子が、命綱や防護服を身にまとって、切れたりしていないか確認していた。
「…何、しているの?」
そう問いかけると、彼女−テトと言う名前だった気がする−は『何を言っているんだろう』と言わんばかりの目でこちらに視線を向ける。
「君は実に馬鹿だな。こんな格好をしてショッピングでもするように見えるのかい?」
大げさに呆れ返ってみせると、ため息まじりに声を上げる。
「そこのお嬢さんがお兄さんを助けてと泣くものだから出動するのさ。君たちと違ってこっちはいつ消えても構わない存在だからね」
何せ偽物だ、なんて自嘲まじりで。
私はリンをひとつ撫でてから腕を外すと、彼女の方へと歩み寄る。
「……なんだい?」
「代わってちょうだい」
「………何だって?」
私の言葉が理解出来ないと言うかのように苦笑まじりに聞き返すテトに、私はもう一度言う。
「カイトを助けには、私が行くわ。代わってちょうだい」
私の言葉はよっぽどおかしかったのか、彼女はクッと小さく笑って。
「人の話をちゃんと聞いていたか?君たち本物を犠牲に出来ないから、価値が低くて替えの利く我々偽物が…」
「替えが利くとか、軽々しく言わないの。…皆同じよ。需要があって生まれてきたものはそれだけの価値があるわ。…その人の価値なんて、自分じゃなくて周りが決めるものよ?」
黙り込む彼女に追い打ちをかけるように私は言葉を重ねる。
「それに、カイトを助ける役を誰かに譲る訳にはいかないの」

譲るつもりはなかった。
それを解ってくれたのか、もしくは彼女も諦めてくれたのか、着ていた防護服を脱ぎ始めた。

「メイコ姉…」

リンが不安そうな目を向けてくる。
「本気なの?メイコ姉…だってごみばこだよ?メイコ姉だって、だって…」
縁起でもない事は言いたくない、とでも言うようにぶんぶんと首を振る。
そんなリンの気分を切り替えさせるようにぽん、と頭に手を乗せる。
「大丈夫よ。それに、駄目なカイトの首根っこを掴んで連れ帰るのは私の役目でしょう?」
そう言ってニッコリ笑うと、防護服の上から命綱をしっかりと。

「いいかい?命綱があると言ってものんびりはしていないでくれよ?時間がかかればかかるほど身体に負担がかかる。深く行けば行くほど戻れる可能性は低くなる。速やかに目標を見つけて戻ってくる事だ」
「えぇ、解ったわ」

正直怖くないと言えば嘘になる。
怖いに決まっているわ。

でも…カイトの居ない世界なんて、世界なんて。


−−私に取って意味のない世界だわ!





落ちていく、暗くなって行く。

廃棄物らしいゴミやまだ動きそうなものや…いろいろ、散らばっている。


ここが、ごみばこ。


ここに長い事居ると息が詰まりそうね。
空が見えないし、空気が淀んでいる気がするし。

こんな所に長くはいられない。


「カイト、どこに居るの?カイト!」


浅い所には居ないみたい…もっと、奥に行かないと駄目…?



空間を泳ぐように、下へ、下へ。

ゆっくりとしか動かない自分がなんだかもどかしい。


ここに入ってどれくらいの時間がたったのかも良く解らない。




5分?

30分?



それとも、もう2時間くらい経ってたりして?






あれ…?今、ちらっと青色が見えた、気が、する……。


「カイト!?」





−−−っ見つけた!


「カイト!」


ひらひらとたなびくマフラー。

落ちて行く身体。


声が聞こえないの!?



「カイト!!何してんの!カイトっ!!」



よく見ると、カイトの目がなんだかうつろに見える。

表情がぼんやりしていると言うか…。


もう手遅れだって言うの……?



いいえ…いいえ!

−−−−を…愛する人を!このままこんな息苦しい所でひっそり逝かせたりしない…!



「カイト、起きて!起きなさいっ!」





今ほどゆっくりとしか動かない自分がもどかしく思う事はない。

必死で下に潜ろうとしても中々縮まらないカイトとの距離。


何が入っているのか、カイトの腕はしっかりと自分のバッグを抱きかかえているから、手を引く事も出来ない!





「……っカイト…っ!」





そこに居るのに、届かない手…届きそうで届かないカイト。

そのままゆっくりと確実に落ちて行く私たち。



このままじゃ…本当に戻れなくなっちゃう…!





「目を…醒ましなさいよ…っ、バカイトっ!!」




なりふり構わず叫んだ声。

知らずに瞳からこぼれた雫がぽたぽたと、彼の頬を叩いて…。






「………め…ちゃん…?」



うつろだった目に光が宿ってる。



「…ないているの…?………泣かないで、メイコ…」



こんな時にでも人の心配をするカイトに思わず叩きたくなる。
でも今はそんな場合じゃないと必死に手を伸ばす。


「そんなの今はいいから、とにかく、手!!」




「手、って……あれ、ここ……?」

「あんたが飛び込んだんでしょっ!!全く、どんなお宝を抱えてるのか知らないけど!!!」



ようやく何が起こっているのか理解したらしいカイト。
どことなくぼんやりしてて…それどころじゃないのに!と思い切り怒鳴りつける。


「早く、ここから出るわよ!ミクも双子もあんたをずっと心配してるんだからねっ!!」




私が必死に伸ばす手に、カイトも必死でまた重そうな手を伸ばして……。













「……全く、いったい何がそんなに大事だった訳?」

ようやく地上に戻ってくる事が出来て、防護服やら何やらを脱ぎ捨てて。
地面に転がっているアイスを未練がましく眺めているカイトの肩に平手を入れて。
まだ少し未練がましそうなカイトに気になっていた事をきいてみる。

「そんなにしっかり抱え込んでるなんて、そんなにそのバッグ気に入ってたんだった?」

カイトはあぁ、と思い出したようにバッグから小さな包みを取り出した。
ピンクの水玉の包装紙と白いリボン。
それを、ぽんと私の掌に乗せて。

「それ、めーちゃんに似合うと思って」

カイトがニコっと満面の笑顔を向けてくる。
開けて開けて、ってアピールしてくるからその白いリボンをほどく。

………これ、この前見てた…。


なに、どういうこと?

頭の中が混乱してきた…。



…私に、プレゼントを渡したいから…こんな無理したの……?



「めーちゃんそれこの前見て気に入ってたでしょ?」

ちゃんと見てるんだよ、なんてカイトが笑うから。





「この、バカ」





「え、え、ええ?」

私の一言に慌てたように手をばたばたさせるカイト。
何か間違った事したのかな、なんて呟いて。


……もうどうしたらいいんだろう!!
こんなに馬鹿で、馬鹿で!

私のプレゼントの為にこんな無理をして、無茶をして!
プレゼントよりもあんたの存在の方が大事に決まってるじゃないの!

でもきっとそれを怒っても、きっとカイトは気にしなくって、反省なんかしなくって!


そんな馬鹿で無茶で猪突猛進で人のことばっかり考えてて芯が強くて最高に愛しいこの男をいったいどうしたらいいのかしら!!




「この、バカイト……」

なんだか視界がぼやけてた気がするけれど。





私は気にせず身体全体でカイトに抱きついた。



















「カイト、出掛けるの?」

とある日の昼下がり、出かけようかと靴を履いていると後ろから声をかけられた。
「うん、天気もいいしちょっと散歩がてらアイスでも買ってこようかなって」
またか、と言う目でめーちゃんがこっちを見る。
それから軽く眉を寄せて。

「私も行くわ。あんたひとりじゃ何をしでかすか解らないしね!」

お財布持ってくるからちょっと待ってなさい、なんてめーちゃんが一度姿を消す。

前ごみばこに飛び込むなんて無茶をしでかしたからか、皆…特にめーちゃんが心配性だ。
あんな事もうしないでってお説教されたけれど、多分またしちゃうんだろうな、なんて思ったのは内緒。
僕に取って、僕自身と言うのはそこまで優先順位が高くないんだよね…。

ただ、僕を心配してくれる皆を心配させたくないから、滅多な事ではしないようにしようとは思うようにはなった。


「お待たせ」

財布を持っためーちゃんが戻ってきて、ブーツを履いて。


めーちゃんの首元には、白い可愛い花がいっぱい咲いたネックレス。




僕は最高に幸せだな、ってしみじみと思う。


「何を笑っているの?行くわよ、カイト」


いぶかしげな顔で振り返っているのは…しっかりしてて、頼りになって、誰よりも優しくて心配性で…僕に取って誰よりも可愛い女の子。

ネックレス、してくれてるんだね、なんて言ったら照れちゃうのは解ってる。


本当に、誰よりも可愛い大切な女の子。






ね、めーちゃん。手を繋いであるこうか。

君と過ごす時間を、もっと幸せな色に染めたいんだ。









聞いて、感じて、目を開いて。

もっとずっと 声重ねて………





声、重ねて行こう、2人で…これからも。






Fin


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ブログに連載してた時からちょっとだけ修正入っています。

無駄に長くなりましたが、これにてお話は完結です。
これを考えている時にぱっと思いついた妄想と小説内に時々引用している替え歌をUPする気になったらUPしたら、カイメイでごみばこ/サルベージ編はまるっとおしまい。
でもやっぱり突然カイメイでにやにやしたくなるんだろうなぁ…。

つたない文章を読んでくれた方、有難う御座いましたv