「なんだ、まだ小日向と榊大地はくっついていないのか?」 がらんとなった菩提樹寮の夏よりずっと快適になったロビーでBGMにしかなっていないバラエティ番組が耳を通り抜けて行く中、優雅に頬杖を付いているのは支倉。 口にしていた飲み物を勢いよく吹き出しそうになるのをようやく堪えて俺は平静を装う。 「お前はそんな事しか考えてないのか?支倉。そんなにネタが欲しいのかよ」 「私をおかしな目で見るのはやめて欲しいな、如月弟。私はただ純粋に親友の幸せを祈っているだけだと言うのに」 そう言いながらも目は楽しそうに笑っているから俺はため息をつく事しか出来ない。 なんでかなではこんな奴と友人関係やってられんだか。 「しかし、せっかくの良いネタだと言うのにさっさとくっつかないものか。 夏休み前に衝撃のオケ部デビューを果たした転校生があのオケ部副部長を落としたなんて、一面を飾っても余りある記事だと言うのに」 やっぱりネタにする気じゃねえか。 そもそも支倉、お前俺の気持ち解ってて俺を話し相手に選んだんじゃねえだろうな? …俺だってずっと、かなでの事が好きだったのに。 ガキのころからずっと見てた。 だが恋なんてのは時間なんか関係なくて、星奏に来て、律と再会してハルに生意気言われて、大地とアンサンブルを組んで。 かなではどんどん巧くなって、俺だけ置いて行かれて手の届かない存在になって。 …どうして巧くなったのかなんか、解ってる。 あいつはぽややんとして見えても決めたことは絶対に諦めないから。 俺が嫌になって逃げちまう事でもあいつはちゃんと立ち向かうから。 それで、なんで、何があいつに火をつけたって、それは…。 …言いたくねえな、認めたくねえけど…大地、のせいだ。 律から聞いただけだが、大地の奴、かなでに酷い事を言ったらしい。 かなでには無理だとかそんな感じのことを。 それを聞いた時は本気で殴ってやろうと思ったもんだが、結果としてそれが、かなでを伸ばす事になったんだから結果オーライなんだろう。 それにしても大地の奴、かなで相手にあんなに可愛い可愛い連発してやがったのにちっとも遠慮しねえんだな。 正直意外だった。あいつ…見た目ほど軽くないんだな…。 んでもって何か面白くねえのは、もやもやすんのは、相手が大地だからじゃなくて、きっかけが俺じゃなかったこと、俺が力になれなかったこと、で…。 「仕方ないだろう、如月弟。お前には根性もきっかけもたらしの才能もないのだから」 「だからそうやって俺の傷口に塩を塗り込むのは止めろ、支倉っ!」 なぜか俺の考えを見抜いてしれっと言い放つ支倉の口撃に、俺はせめて強がる事しか出来なかった。 「…まぁ、もう少しすれば学院祭だ。いくらなんでもそこまでには落ち着くだろう」 やれやれと肩を竦めながら言う支倉。 確かに…そこまでにはくっついてもらわないとこっちも落ち着かない。 …かなでを任せても良いと認めてやってんだから、しっかりしろよ、大地。 お前がただ軽いだけの男じゃないって、信じてやるから。 「如月弟は本当に面白いな。ここまで考えている事が手に取るように解るとインタビューの手間が省けて助かる」 「……っ!」 なになに、何か楽しい事を話してるのー?と風呂上がりのかなでが無防備に寄ってくるまで、俺は支倉の暇つぶしに付き合わされるはめになるのだった。 ---------- 以上、2.5話でした。今回は響也目線です。 響也は…なんと言うか、ゲーム本編を通してヘタレでヤラレキャラで可愛いなあと…可哀想なキャラだなあと思ったり。 ひなちゃんが大好きなのに、11通り悲恋する訳ですよ!(コラ) あ、響也大好きですよ、私!でもこのお話は響也が可哀想だと本気で思います。 |