もうすぐ、彼女とであった季節がやってくる。
かけがえのない思い出とめぐり合わせがあった、僕の転機が。





一緒に住み始めてそれなりに経つけれど、僕はまだ彼女に飽きることが出来ずにいる。
まっすぐで、純粋で、努力家な彼女はいつでも新鮮な驚きと喜びを僕に与えてくれるから。
ふたご座は浮気性だなんて誰かが言っていたけれど、残念ながら僕と月子に対しては当てはまらないようだ。


「郁、…あの、ね?今日は陽日先生とか星月先生と呑みに行ったり、するの?」
僕のネクタイに四苦八苦しながら、月子が不意にそんな問いかけをしてくる。
…たとえば僕が彼女を可愛いと思うときと言うのはこういう時で。
本人としてはさりげなく、何気なくを装っているつもりなんだろうけれど、僕にはバレバレ。
そんな訊き方じゃ今日の夜に何かをたくらんでいることくらいお見通しだよ。
だから僕は何も気付かない振りをして、からかいたくなる。
「さぁ、どうだろう。誘われたら行っちゃうかもしれないね。今日何かあるの?」
…あ、顔が一瞬こわばった。
と、こっそり考えていると…。
「べ、別になにも、ないけど…!」
…動揺しているのかぐいぐいとネクタイが締められる。
「ちょ…!月子、待って苦し…!」
「え、きゃあ!ごめんなさい!」
まったくもう、なんて苦笑しながらネクタイを緩める僕に、何か言いたそうな言えないような、困った表情を見せるから。
からかいたいけど、あんまりいじめるのもかわいそうな気がしてくる。
いつの間に自分はこんなに甘い人間になったのかと肩をすくめるけれど、それと同時にそんな自分が嫌いじゃないことに気付く。
「解ったよ。僕がいないと月子は寂しくて泣いてしまうから、あんまり遅くならないうちに帰ってきてあげる」
素直になれない僕はからかうような口調で。
その代わり月子の頭を撫でる右手は飛び切り優しく。
ようやくネクタイを結び終えた月子が赤い顔でこくりと頷くから、素直になったご褒美として額に口付けを落とした。



今日は。
何の日かなんて勿論知ってる。

今日は僕たち以外には何の意味もない、でも僕たちにとっては大切な記念日のひとつ。


約束どおり残業をすり抜けて、陽日先生や琥太にぃにも事情を説明して早々に開放してもらって。
その分次の日の仕事が大変だろうけれど、そんなことは僕だけが覚悟しておけばいいこと。
早々に学園を後にし、寄り道ひとつだけでまっすぐ帰宅した。それはもう、記録的な早さで。


「ただいま、僕の可愛い子猫ちゃん。…いい子で留守番出来た?」
子ども扱いしないでと膨れる姿が凄く可愛いから、もっと可愛い姿を見たくなって。
「月子、おかえりのキスは?…くれないと、僕は玄関から上がれないんだけど」
それでもいいの?と悪戯っぽく聴けば、真っ赤になりながら子猫のような可愛らしいキスをくれる。
頬に、だったのが少し物足りなくはあるのだけど…そんなお子様なキスにでも喜んでしまえる僕は本当に現金だと思う。
それに今日のメインはこの程度じゃないしね。
ここは素直にそれで満足しておいて、荷物や上着を月子に預けながらリビングへと向かう。
テーブルには予想通り、彼女の精一杯な手料理が並んでいた。
保健室で初めて飲んだあのお茶と比べればこの進歩は大したものだと思う。
彼女は本当に努力家で…僕には勿体無い僕の自慢の奥さん。

「…あのね、郁。今日は…」
「僕たちが出会った日、でしょ?」
彼女の言葉の後ろ半分を奪う形で続ける僕に、月子は嬉しそうに照れくさそうに苦笑する。
「…やっぱり気づいてたんだね」
驚かせたかったのになあ、なんてちょっと拗ねてみせる様子すら可愛いから、困る。
拗ねてしまった唇を宥めるように口付けて。
「君は嘘をつけないからね。…朝の態度で何かを企んでることくらいお見通し。
でもそれ以前に…君との記念日を、僕が忘れるわけないでしょ?」
そうして言葉とキスで真っ赤になってしまった月子の頭を軽く撫でると、テーブルの前に腰を下ろす。
「今日も美味しそうだね。…オムライス、凄く嬉しい」
さりげなくこうして僕の好きなものを作ってくれる辺りも気に入っている。
僕の言葉に彼女は誇らしげに微笑んでみせた。
「折角の記念日だもん、頑張っちゃいました。…さ、食べて食べて!」
ううん、でも後ちょっと、惜しい所なんだけれどな。
僕は口を開けて彼女を待つ。
「……郁?」
きょとんと目を見開かせる彼女にヒントを出す。
「ねえ、月子。…僕お腹減ったんだけど」
「うん、だからどうぞ?」
「うん、だから月子が食べさせて?」
「え…え、ええっ!?」
ようやく僕が望んで居る事を理解したのか顔を真っ赤にする月子。
でも、ここは僕も譲れない所。
「月子。…あんまり聞き分けがないと…意地悪するよ?」
わざと低く、色気を含んだ声で声を掛けると、諦めたようにため息をついてスプーンを手にする。
オムライスを一口すくって、ふぅ、と冷まして僕の方へと差し出してくれる。
「郁……あーん…!」
あんまりからかうと拗ねてしまうかな、その真っ赤な顔で目線が泳いでて…僕の事を意識している君が最高に可愛い、なんて。
後でゆっくり、僕がどれだけ君の事を可愛いと思っているか、じっくり教えてあげないと。
口元へ運ばれたオムライスを、口を開けて迎え入れる。
どこぞの名店の味と比べれば勿論劣るであろうそれが、僕に取っては何よりのご馳走。
「…美味しい…?」
反応が気になるのか、頬を林檎にしたままこちらを伺う月子に、ニッコリ笑いかける。
…僕の笑顔に、なぜかぴくりと顔をこわばらせる月子。
うん、その反応は凄く正しいよ。
「うーん、一口じゃ良く解らないな。もう一度お願い」
「郁の意地悪っ!」
ぷくっと頬を膨らませた彼女をなだめながら、何度も食べさせてもらったのはまた別の話。


仕方ないでしょ。君が僕なんかを好きになるから悪いんだ。
もう逃がしてあげないから、覚悟してよね?



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このもじゃ!もじゃめ!!!
なんか、こう…大人になりきれない大人と言うか、素直になれない子供と言うか…郁って難しい!
素直になれないけど愛情だけは溢れてる具合が表現出来てると、いいなあ…。
本当、もっと文章がうまくなりたい!
もじゃの絵も描きたいなあ…ちょっと練習してみよう。